京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の井上治久教授らの研究チームが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を対象としたボスチニブの第2相臨床試験において、主要評価項目を達成したことを発表しました。この画期的な成果は、iPS細胞技術を活用した創薬研究(iPS創薬)から生まれた治療法の可能性を示すものです。

研究チームは、2019年から2021年にかけて第1相試験(iDReAM試験)を実施し、ALSに対するボスチニブの安全性と忍容性を評価しました。その結果、ALS特有の有害事象は認められず、一部の患者でALSの進行抑制が観察されました

これを受けて2022年から開始された第2相試験では、約25名のALS患者を対象に、24週間のボスチニブ投与による有効性と安全性を評価しました。この多施設共同非盲検試験の結果、主要評価項目が達成されたことが明らかになりました

ボスチニブは、もともと慢性骨髄性白血病の治療薬として承認されている薬剤です。研究チームは、ALS患者由来のiPS細胞から作製した運動神経細胞を用いて、ALSの病態を再現し、さらに運動神経細胞の細胞死と異常タンパク質の蓄積を抑制する化合物をスクリーニングするiMNシステムを構築しました。このシステムを通じて、ボスチニブがALSに対して強い効果を持つことが同定されました

この研究成果は、既存の薬剤を新たな疾患に応用する「ドラッグ・リポジショニング」の成功例として注目されています。既に安全性が確認されている薬剤を用いることで、新薬開発に比べて迅速な臨床応用が期待できます。

だし、現時点でボスチニブはALSの治療薬として承認されておらず、ALSに対する有効性、安全性、用法用量は確立されていません。そのため、現在ALSの治療薬として使用することはできません。この研究成果は、iPS細胞技術を活用した創薬研究の可能性を示すとともに、難治性疾患であるALSの新たな治療法開発に向けた重要な一歩となりました。今後の更なる研究と臨床試験の進展が期待されます。

出典

https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/240612-120000.html

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