愛媛県が実施した小児慢性特定疾病児童等自立支援事業における実態把握事業の調査結果について、詳細な解説記事を作成いたします。小児慢性特定疾病児童等自立支援事業の実態調査結果から見える課題と今後の展望愛媛県は、令和5年度に小児慢性特定疾病児童等自立支援事業における実態把握事業を実施し、その結果を公表しました。
この調査は、地域の小児慢性特定疾病(以下、小慢)児童等やその保護者の実態を把握し、課題を分析することで、任意事業(努力義務事業)の実施及び利用を促進することを目的としています。
本記事では、この調査結果の詳細を解説し、浮かび上がった課題や今後の支援のあり方について考察します。
調査の概要
調査は令和5年9月20日から10月29日にかけて実施され、小慢受給者証を持つ子どもがいる家庭574世帯を対象としました。回答があったのは89世帯で、回収率は約16%でした。回収率が低かった主な要因として、受給者証の更新手続きの案内に調査票を同封したことで、更新の案内に意識が向いてしまい、調査票への意識が低下したことが想定されています。
回答者の属性
回答者の属性を見ると、母親が圧倒的多数を占めており、約90%が母親からの回答でした。これは、小慢児童の日常的なケアや医療機関への付き添いなど、主に母親が担っている現状を反映していると考えられます。
子どもの年齢と在籍する教育機関
調査対象となった子どもの年齢は、7〜12歳が最も多く、次いで16〜20歳、13〜15歳の順となっています。在籍する教育機関は、小学校が最も多く、次いで高等学校、中学校となっています。この結果から、小慢児童等の支援ニーズが学齢期全般にわたっていることが分かります。
疾患群の内訳
小慢児童の疾患群は多岐にわたっていますが、内分泌疾患が最も多く、次いで慢性心疾患、神経・筋疾患、慢性消化器疾患の順となっています。この結果は、各疾患群に応じた専門的な支援の必要性を示唆しています。
医療機関の利用状況
診断後、定期的にかかっている医療機関の所在地は、松山市が最も多く、次いで県外となっています。これは、専門的な医療を受けるために遠方の医療機関に通う必要がある小慢児童等が一定数存在することを示しています。また、入院や通院をする上での困りごととして、「医療機関が遠方で通院に時間がかかる」「通院のための交通費がかかる」「診察に時間がかかる」などが挙げられており、医療アクセスに関する課題が浮き彫りになっています。
在宅での生活支援に関する課題
在宅での生活を支えることについての不安や悩みとして、「子どもの成長・発育への不安」「子どもの病気の悪化への不安」「他の家族への影響」「家庭の経済的な不安」などが挙げられています。特に、障害者手帳を持つ子どもの保護者や医療的ケアが必要な子どもの保護者において、これらの不安が顕著に表れています。
学校生活に関する課題
学校や保育所等での活動についての不安として、「体力面」「精神面」「教職員の理解」「クラスメイトの理解」などが挙げられています。特に、障害者手帳を持つ子どもの保護者において、「教職員の理解」に関する不安が高くなっています。これらの結果は、学校現場における小慢児童等への理解促進と支援体制の強化が必要であることを示しています。
就労に関する不安
子どもの就労についての不安や悩みは、回答者の約6割が「ある」と回答しています。特に、子どもの年齢が高くなるほど就労についての不安が高くなる傾向が見られ、16〜20歳では約8割が不安を抱えています。就労支援の必要性が高まっていることが分かります。
医療費助成と自立支援事業の認知度
医療費助成の申請や受給者証の更新の際に、自立支援事業の説明を受けたかどうかについて、「わからない/覚えていない」と回答した者が約6割と最も多く、次いで「説明を受けていない」が約3割でした。この結果は、自立支援事業の周知不足を示しており、情報提供の方法や内容の改善が必要であることを示唆しています。
相談支援の利用状況
子どもについて相談できる相手や場所として、「同居している家族や親族」が約8割と最も多く、「自治体の小慢の相談窓口」や「保健所・保健センター」は約1割に留まっています。公的な相談支援サービスの利用が低調であることが分かり、相談支援体制の強化と周知が必要であると考えられます。
成人期への移行に関する課題
成人期への移行に関する不安として、「成人期も小児期に受診していた診療科や病院を継続して受診できるか」「子どもが将来、自立して暮らせるかどうか(生活面、安全面)」などが挙げられています。移行期医療支援の必要性が高いことが分かります。
災害対策に関する課題
災害に備えた準備として、「避難場所の確認」「避難時に持ち出す医薬品・物品等の準備」などを行っている家庭が多い一方で、避難行動要支援者名簿への登録状況は低調です。名簿自体を知らないという回答が7割以上を占めており、災害時の支援体制に関する情報提供の強化が必要であることが分かります。
今後の支援のあり方
調査結果を踏まえ、愛媛県は以下のような支援の拡充を検討しています:
a) 広報・周知の強化
自立支援事業や相談窓口の存在を広く周知するため、県や市のホームページの充実化やパンフレットの作成・配布を行います。また、保健所の窓口等でも相談ができる旨を明記し、利用者の安心感につなげます。
b) 継続的なニーズ把握
受給者証更新申請手続きの際に簡単なアンケート(お尋ね表)を実施し、地域ごとの小慢受給者のニーズを継続的に把握する仕組みを構築します。
c) 事業の拡大と多様化
学校や保育所等との連携、移行期医療支援、学習支援など、ニーズの高い支援を強化します。また、松山市では独自に就労支援や交流支援の充実を図ります。
d) 支援範囲の検討
医療的ケア児や障害児に対する支援について、関係者間で協議し、支援の範囲や役割分担を明確化します。
考察
この調査結果から、小児慢性特定疾病児童等とその家族が直面している多様な課題が明らかになりました。特に以下の点が重要であると考えられます
a) 医療アクセスの改善
遠方の医療機関への通院負担を軽減するため、オンライン診療の活用や地域の医療機関との連携強化が必要です。
b) 学校生活支援の充実
教職員や同級生の理解促進、学校と医療機関の連携強化、特別支援教育の充実などが求められます。
c) 就労支援の強化
年齢に応じたキャリア教育や職業体験、企業への啓発活動など、長期的視点での就労支援が必要です。
d) 移行期医療の充実
小児期から成人期への移行をスムーズに行うため、移行期医療支援センターの設置や、小児科と成人診療科の連携強化が重要です。
e) 災害対策の強化
避難行動要支援者名簿の周知と登録促進、個別避難計画の作成支援など、災害時の支援体制を整備する必要があります。
f) 相談支援体制の強化
公的な相談窓口の周知と利用促進、ピアサポート体制の構築など、多様な相談支援の仕組みづくりが求められます。
g) 家族支援の充実
レスパイトケアの提供や、きょうだい児支援など、家族全体を支える取り組みが必要です。
結論
愛媛県の小児慢性特定疾病児童等自立支援事業における実態把握調査は、当事者とその家族が直面している多様な課題を明らかにしました。医療、教育、就労、災害対策など、多岐にわたる分野での支援の必要性が浮き彫りになっています。
今後は、この調査結果を踏まえ、関係機関が連携しながら、よりきめ細かな支援体制を構築していくことが重要です。特に、ライフステージに応じた切れ目のない支援、地域格差の解消、当事者の声を反映させた施策の立案などが求められます。また、定期的な実態調査の実施と、その結果に基づく施策の見直しを行うことで、社会情勢や医療技術の進歩に応じた柔軟な支援体制を維持していく必要があります。
小児慢性特定疾病児童等とその家族が、地域社会の中で安心して生活し、子どもたちが持てる力を最大限に発揮できるよう、行政、医療機関、教育機関、企業、地域社会が一体となって支援の輪を広げていくことが、今後の大きな課題であり、また目標でもあります。この調査結果を契機に、愛媛県における小児慢性特定疾病児童等への支援がさらに充実し、モデルケースとして他の地域にも波及していくことが期待されます。