日本の難病対策、歴史と現在地は?

■日本の難病対策の歴史

日本の難病対策は、昭和40年代初期に急増したスモン(SMON:Mubacute Myelo-Optico-Neuropathy)という病気がきっかけになっていると言われています。スモンは、視神経を侵すと同時に脊髄炎を合併する病気ですが、我が国でしか見られないうえ、当時は原因が分からなかったため、「奇病」とも呼ばれていました。

これに対し、厚生省は昭和44年に調査研究協議会を作り、研究班によるプロジェクト研究が行われました。その結果、翌年には整腸剤「キノホルム」とスモンが関係があることが明らかになったのです。実際に、厚生省がキノホルムの発売を中止したところ、それから新規の患者さんが激減したそうです。この事件は、難病と言われている病気でも、集中的にさまざまな人が研究することによって原因が解明される可能性があることを示しているのではないでしょうか。

スモンの事件をきっかけとして難病に対する集中審議が国会で行われ、昭和47年には難病対策要綱が策定されました。この要項は、難病の定義を「1:原因不明、治療方針未確定であり、かつ、後遺症を残すおそれが少なくない疾病」「2:経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみならず、介護等に等しく人手を要するために家族の負担が重く、また精神的にも負担の大きい疾病」だとしています。また、難病の対策について、疾患の病因や病態を研究するための診療を整備することに加えて、難病に対して医療費を公費で負担することを目指すことも決まりました。

当初の調査研究の対象は、スモン、ベーチェット病、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシス、再生不良性貧血、多発性硬化症、難治性肝炎が選ばれたそうです。特に、スモン、ベーチェット病、重症筋無力症、全身性エリテマトーデスの4つの疾患は医療費助成の対象にもなりました。

それから日本の難病研究は進展し、これまでに医療費助成の対象疾患として「診断基準が一応確立し、かつ難治度、重症度が高く、患者数が比較的少ないため、公費負担の方法をとらないと原因の究明、治療法の開発などに困難をきたすおそれのある疾患」として、56個の疾患が「特定疾患治療研究事業(医療費助成事業)」の対象になりました。

一方で、難病対策の対象となる疾患の数が増加したために対象患者数も増加し、平成23年度末には78万人にまで増えました。つまり、難病対策に必要な経費も増加しているのです。医療費助成事業は都道府県や指定都市が実施主体であり、国の財政悪化によって都道府県や指定都市の超過負担が発生するなど、限界を迎えつつあったようです。

■難病法の成立

こうした課題に対して、平成26年5月23日に「難病の患者に対する医療等に関する法律」、いわゆる「難病法」が成立し、平成27年1月1日に施行されました。これによって、医療費の支給については国がその半分を負担することが決められたのです。治療費の公費負担分は国と都道府県・指定都市が半分ずつ負担するということです。また、難病法によって、医療費助成の対象となる疾患を「指定難病」と呼ぶことも定められました。

難病には「発病の機構が明らかでない」「治療方法が確立していない」「希少な疾患である」「長期の療養を必要とする」という4つの条件があります。指定難病は、この4つに加えて「患者数が本邦において一定の人数(人口の約0.1%程度)に達しないこと」と「客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が成立していること」という2つの条件が定められています。つまり、指定難病とは難病の中でも特に患者数が少なく、客観的な診断基準が揃ってあり、さらに重症度分類で一定程度異以上である疾患を指します。

平成27年1月1日に第1次実施分として110疾病が指定されたのですが、同年5月13日には第2次実施分の196疾病も決まって合計306疾病が対象となり、平成27年7月1日から医療費助成が開始されました。平成27年度末時点の指定難病の患者さんは約94万人となり、医療費の助成は2000億円以上にもなったとのことです。これ以降、指定難病検討委員会は指定難病の追加を検討しており、令和3年11月現在の指定難病は338疾患です。

■難病に対する2つの事業

以前は特定疾患(難病)の診断は医師であれば誰でも行うことができましたが、今では難病指定医でなければ新しく指定難病の診断をすることができません。そのため、患者さんが最初に難病の申請を行う場合には、まず難病指定医のところに行く必要があります。338個の指定難病は各疾患の診断基準と重症度分類がすでに決められており、難病指定医が「診断書(臨床個人調査票)」に診断基準と重症度分類に関する判定結果を記入して、最終的には都道府県・指定都市が判定します。

これまで、難病に対して「難治性疾患政策研究事業」と「難治性疾患実用化研究事業」の2つの事業が行われてきました。「難治性疾患等政策研究事業」では、難病患者さんの実態把握や診断基準、診療ガイドラインなどの確立などを行い、難病の医療水準の向上を目指しています。そのためには、難病指定医が入力する難病患者さんのデータベース(情報)がとても重要です。

もう一方の「難治性疾患実用化研究事業」では、遺伝子治療や、医薬品などの医療技術の実用化を目指した臨床研究、医師主導治験の整備などに取り組んでいます。難病の病因や病態の研究というよりは、むしろ新しい治療法の開発を目指しています。

難病に関するこの2つの事業は互いに連携をしながら、新しい治療方法の開発に向けた難病研究の推進に取り組んでくれると期待されます。平成27年度からは、「難治性疾患政策研究事業」は厚生労働省が、「難治性疾患実用化研究事業」は日本医療研究開発機構が担当することになりました。

出典:https://www.nanbyou.or.jp/entry/4141

スポンサーリンク
おすすめの記事