国立循環器病研究センター(国循)と大阪大学の研究グループが、難病である「ミトコンドリア心筋症」の進行メカニズムを解明しました。この研究成果は2025年4月22日に発表されました。
研究の背景と意義
ミトコンドリア心筋症は、細胞内のエネルギー工場であるミトコンドリアの機能障害によって引き起こされる難病で、有効な治療法がなく、その病態進行メカニズムも十分には解明されていませんでした。
今回の研究では、国循で診療された8ヶ月齢の女児のミトコンドリア心筋症患者の心筋組織とモデルマウスを用いた単一細胞遺伝子発現解析を組み合わせることで、病態進行過程を擬似的にトレースすることに成功しました。
主な発見
研究チームは、病態進行過程で「転写因子Atf3」が重要な運命決定因子として機能することを明らかにしました1。具体的には以下のメカニズムが解明されました
- 病初期には、ミトコンドリアの機能低下を補うため、ミトコンドリアの数を増やす代償機構が働く
- 「転写因子Atf3」がこの代償機構をスイッチオフさせることで病態が進行する
- モデルマウスでAtf3を欠損させると、心保護効果が見られることも確認された
研究手法
研究チームは二つのアプローチを用いました:
- 国循で診療された8ヶ月齢女児のミトコンドリア心筋症患者組織を用いた遺伝子発現解析
- ミトコンドリア心筋症モデルマウス(FS6KDマウス)の心臓を用いた単一細胞遺伝子発現解析
患者の心筋組織は、予想外に不均一で、変性の少ない心筋と変性が多く病態が進行した心筋が混在していました。この不均一性から病態進行過程を追跡することができ、Atf3の役割を特定することができました。
今後の展望
この研究成果は、ミトコンドリア心筋症だけでなく、他のミトコンドリア病や心不全の治療法開発にも貢献することが期待されています。特に、重症心不全の状態でも治療介入の余地がある心筋細胞が残存している可能性が示されたことは、新たな治療アプローチの可能性を開くものです。
この研究は、国循分子薬理部のTasneem Qaqorhリサーチフェロー、新谷泰範部長の研究グループを中心に、大阪大学大学院生命機能研究科、京都大学、九州大学、北海道大学、順天堂大学、埼玉医科大学、メルボルン大学との共同研究により行われました。